(前書き)

 この話は、拙作『宝珠師横島 〜The Jewelry days〜』第5話に登場した、オリジナルキャラクター『戸西 薫』さんの後日談になります。未読の方は、お手数ですが『宝珠師横島 〜The Jewelry days〜』第5話をお読みになってから、ご覧ください。


 

宝珠師横島outside-stories 〜戸西さんと京道さん〜


 

(京道 和葉)
「あっ、戸西君」
「どうも、いつもお世話になっております」

 きっちりとしたスーツに身を包んだ私とほぼ同年代の男性、戸西君。

(へえ・・・)

 いつものように浮かべられた微笑。しかしそこに以前のような影はないように見える。

「まあ座って。コーヒーは?」
「いえ、朝飲んできたので・・・」

 コーヒーを飲みすぎるとおなかを壊すんですよ、と笑いながら手を振る戸西君。なら私だけ飲むわけにはいかないか。

「それでどうしたんですか?」
「ん、ちょっと宝石にかけられてた盗難保険についてね・・・」


 

 資料の入った封筒を渡す。この業界ではよくある・・・まああってもらっては困るのだが・・・宝石にかけられていた不審な保険に関する調査依頼だ。

「確かにちょっと変ですね」
「でしょ?」
「分かりました。本社の方に問い合わせてみます」
「お願いね」


 

 封筒を鞄にしまう戸西君。それにしても・・・


 

「ふふ・・・ずいぶんいい顔になったみたいね・・・」
「え?」

 私の言葉に首をかしげる戸西君。しかし私の笑みが何を意味しているのかすぐに察したようだ。

「・・・その節はおせわになりました」

 ソファに腰掛けたまま、頭を下げる戸西君。私は首を振る。

「いえいえ、私は紹介しただけだからね」
「それでも、ありがとうございます」


 

 彼に横島さんを紹介したのは、もうずいぶん前の事。

「柚香のこと・・・ふっきれたみたいね・・・」
「まだ未練が残ってるんですけど」

 そういって照れたように笑う戸西君。


 

 『京道柚香』・・・それは戸西君の死んだ恋人であり、私の妹。


 

 オカルトGメンに入りたい一辺倒で、ずっと修行に明け暮れていた妹。そんな年の離れた妹に・・・もうその時は妹もいっぱしのGメン隊員になっていたけど・・・恋人が出来たと知ったときは、喜ぶと共に、変な男に引っかかったのではないかとヤキモキしたのをよく覚えている。

 その後、仕事の関係で戸西君と知り合い、そしてその戸西君が柚香の恋人だと知ったときは、それはそれは胸をなで下ろしたものだった。

「それにしても戸西君が柚香の恋人って知ったときは、本当に驚いたわね」
「私は知ってたんですけどね」

 オカルト業界は、狭い。霊能が血縁によるところが大きい事もあり、意外な所に血のつながりがあったりする。

 ちなみに私はしばらく気づかなかったのに、戸西君は始めから知っていたそうだ。なぜ言わなかったのかと聞いたら・・・

『いや、なにも言われないものだから、妹さんとのお付き合いを反対されているのかと・・・』

 戸西君の内心は冷や冷やものだったらしい。失礼な話だが、まあ結局は照れ屋な柚香が恋人を紹介してくれなかったのがそもそもの原因なのだ。


 

「ま、それだけ想われてれば柚香も幸せもんね」


 

 妹が殉職したと知ったとき、私は意外に冷静だった。それはこの業界がいかに危険かという事を知っているからだろう。それは私自身もGSだから十二分に理解している。

 だから妹が死んだときも確かに泣きはしたが、どこか冷静な自分がいた。

 だがオカルト業界の事を知らない戸西君にしたら、そんな私はずいぶんと冷たい人間に感じられたかも知れない。


 

「それで横島さんに本当の事は?」
「はい・・・こんど時間が出来たときにでもお詫びに行こうかと。結局横島さんに嘘を付いてしまったわけですし・・・」

「ああ、それならその必要はないわよ」
「・・・はい?」
「この間横島さんにこれを渡されてね。『戸西さんへ』って」


 

 この間会った横島さん。その時受け取ったメモを取り出す。


 

「横島さんとオカルトGメン日本支部長の・・・西条さんっていうんだけど・・・飲み友達らしくてね。その人から聞いたんだって」
「そう・・・なんですか。それで横島さんは他に何か言ってみえましたか?」

 その時の事を思い出す。

「別に。ただこれを渡してくれってだけ」


 

 戸西君にメモを渡す。


 

 そのメモを見た瞬間、小さく笑い出す戸西君。

「いったい何が書いてあったの?」

 そう言う私に、戸西君がメモを差し出す。


 

『指輪のサイズ直し、高くつきますよ。またのご利用、お待ちしております』


 

「くく・・・横島さんらしいわね・・・」

 思わず笑ってしまった。本当に、横島さんらしい。

「それじゃあ、しっかり働いてお金を貯めないとね」
「そうですね」

 メモを大事そうに胸ポケットにしまい、立ち上がろうとする戸西君。

 せっかくだから私も何かお礼してもらっても、罰は当たらないわね。


 

 ちょっとだけ、借りるわよ柚香。

「戸西君。今晩どう、夕食でも?」


 

 そう言えば私と柚香の趣味があったの、これが初めてかもね。

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