蛍の光・・・・・


 

窓の雪・・・・・


 

 宝珠師横島before 〜The Broken stones〜

 -----第3話『願い・すれ違い』


 

(ベスパ)

 アタシが妙神山に滞在するようになって、もう一週間。あれ以来、ポチのヤツがバカなマネをしようとしたことは、とりあえず無い。

「そ、それででちゅね、小竜姫ったらわたちに修行場の掃除しろなんて言うんでちゅよ。あんな広い、しかも異次元をどうやって掃除すれば・・・」

 縁側の方から聞こえてくるパピリオの声に、何の気なしに耳を傾けながら、水につけておいた昼食の食器を洗う。

「・・・そうか」
「そうでちゅ、全く小竜姫は・・・」

 パピリオの隣で、ボーとした表情で耳を傾けているのはポチ。時々相づちを打ちながら、その目は、きっとどこも見ていないに違いない。

 私のいる勝手場からは見えない光景。しかしこの一週間見続けている光景なので、手に取るように想像できた。


 

『かちゃ・・・かちゃ・・・』


 

 食器が重なり合う音と、流れる水の音。それが私一人しかいない勝手場を、さらに空虚な空間に思わせる。


 

 あの後、目を覚ましたポチは、久しぶりにあったアタシに驚いた様子は見せなかった。

『・・・よおベスパ・・・久しぶりだな』

 姉さんが死ぬ原因を作ったアタシを前にして、胸にパピリオをしがみつかせたままのポチは、小さく笑ってそう言った。ただそれだけだった。

 その言葉はとても澄んでいて、そして透明すぎて、底が全く見えなかったのをよく覚えている。


 

『ザー・・・・キュッ・・・』


 

 蛇口を閉める。妙神山よりさらに上の水源域から引いているという水は、冷たい。


 

 この勝手場を使うのは、基本的にアタシ一人だ。パピリオに家事をさせたなら、皿が割れるどころか、下手をしたらこの勝手場が半壊しかねないし、だいたい料理一つも出来ないパピリオがいてもしょうがない。ポチに至っては、包丁が置いてある勝手場にいれるなど、言語道断だった。


 

 思い出す。

 目を覚ましたポチに、アタシは尋ねた。『どうして自殺などしようとしたのか?』と。そう聞いたアタシに対して、ポチは逆にアタシにこう聞き返した。

『えっ?・・・いや自殺って言うか・・・ほら・・・歌にあるだろ?・・・ホタルを呼ぶには・・・呼び水がいるからさ・・・』


 

 声もなかった。

 ポチのヤツにとって自分の血は・・・例えそれが致死量であっても・・・ホタルを呼ぶためのエサでしか無いというのか・・・。


 

『それにさ・・・自殺ってかさ・・・死んでみたいって言うか・・・・・何か・・・したくならないか、たまに?』


 

 戦慄。本当に不思議そうに聞くポチ。


 

 しかし背筋が寒くなるのと同時に、アタシにはとてもよくその気持ちが分かった。


 

『そう・・・かもな・・・』


 

 ふと口をついて出てしまった言葉。パピリオに聞かれなかったのは、本当に運が良かったとしか言いようがない。もし聞かれでもしていたら、きっとパピリオの心の平行は、今以上に崩れていただろうから。


 

 濡れた手を拭き、そっと縁側の方に歩み寄る。予想通り、そこにはポチとポチにぴったりと寄り添うパピリオの姿が見えた。

 一生懸命な様子で話をするパピリオと、そんなパピリオに耳を傾けるポチ。一見すれば、それはほほえましい光景に見えるかも知れない。

 しかしアタシには、その光景がとても痛々しく見える。

 どんなにがんばっても、どれほど構っても、ポチの気を引くことは出来ない。それが分かっていて、それでも構い続けるパピリオ。それは一生懸命などではない・・・まさに『必死』。

 この1週間、3人で過ごして、あの時小竜姫が言ったことがよく分かった。


 

 本当にパピリオは、ポチの側を離れようとしない。

 寝るときやお風呂の時も必ずポチ共にいるし、この1週間の間、昼間のほとんどを縁側で寄り添って過ごしている。じっとしている事が出来なかった以前のパピリオからしてみれば、それは信じられない事だった。

 そう、パピリオはヨコシマから決して離れない。それこそ離れるのは、トイレの時くらいだ。


 

 この1週間で何度も目にした。


 

 トイレのドアの脇で、膝を抱え、まるで捨てられた子犬のような姿で待つパピリオの姿。じっと、ただじっと・・・待ち続ける。小さな物音一つにも、その小さな身体をびくつかせ、そばにポチがいないという事実に震えながら、ポチが姿を現すのをただ待つ。その瞳に映るのは、ただひたすらに『怯え』。

 正直、もういいと言ってやりたくなる。ポチの事なんて放っておけばいい・・・と。事実、遠回しにそう言ったことも、何度かある。

 しかしそう言うたびに、パピリオは首を振った。


 

『ヨコチマは・・・わたちが付いていないとダメなんでちゅよ』


 

 乾いた笑みを浮かべながら、そう言ったパピリオ。そんなパピリオを見てしまっては、アタシは何も言えなくなる。


 

 そっと二人に近づく。

 縁側は日に照らされているせいで、少し温かい。

「あ、それとでちゅね・・・この前・・・」

 なあパピリオ、気づいてないかも知れないけど、その話は今日でもう3回目だぞ。

「片づけ・・・終わったよ」
「あっ、ベ・・・・・お姉ちゃん・・・」

 突然話しかけられて、驚いて振り返るパピリオ。しかしポチは全くそんな様子は見せない。

「・・・ああ、ご苦労さん」

 緩慢な動きで振り返り、そう言うポチ。焦点は、どうにかアタシに合っている。

 そのまま近づき、パピリオの隣に腰を下ろす。

 パピリオを挟んで、ヨコシマとアタシ。3人を照らす日の光は、温かい。

「あ・・・そ、それででちゅね・・・」

 話をもう一度始めるパピリオ。所々、相づちをいれるポチと・・・アタシ。


 

 3人の中に流れる空気は、空虚だった。


 

(パピリオ)

 わたちの右にはヨコチマがいて、わたちの左にはお姉ちゃんがいて、そして間に挟まれるように、わたちがいまちゅ。

 それはわたちが夢見た光景。

 すぐ右を向けばヨコチマがいて、すぐ左を向けばお姉ちゃんがいて・・・。


 

(はは・・・あはは・・・わたちは幸せ者でちゅね)


 

 なんだか笑えてきまちゅ。

 そうでちゅ、これでいいんでちゅ。

 わたちが話をすれば、相づちを打ってくれるヨコチマがいて、笑ってくれるお姉ちゃんがいて、わたちばっかり話をして、聞いてばっかりの二人がいて・・・


 

 これ以上のこと、わたちは望んじゃいけないんでちゅ。


 

「・・・・・・」
「・・・・・・」


 

 それにしても今日はいい日でちゅね。

 お日様はぽかぽかしてて、風もなくて・・・本当にあったかい日でちゅ。


 

(こんな日は・・・お昼寝したくなって・・・)


 

 ハッとする。

「あれ、なんでわたちはこんな所に・・・」

 かけられた毛布から抜け出す。隣を見ると、寝息を立てているのはお姉ちゃん。う〜ん、てことはこの毛布を掛けてくれたのはヨコチマでちゅかね?さすが、飼い主ミョウリにつき・・・ま・・・ちゅ・・・


 

「・・・・っ!?」


 

 空をみる。赤い。


 

「・・・ヨコチマ!ヨコチマ!!」

 見回す。ヨコチマの姿はどこにもありまちぇん。

「ベスパちゃん!ベスパちゃん!起きるでちゅ!!」
「・・・ん、どうしたんだパピ?」
「ヨコチマが・・・ヨコチマがいないんでちゅよ!!!!!!!!」

 寝ぼけていたお姉ちゃんのまぶたがカッとひらく。

「なんだって!?」

 飛び起きるお姉ちゃん。毛布が縁側から外に落ちてしまいまちたが、気にしてる場合じゃないでちゅ。

 お姉ちゃんも辺りを見回す。

「ヨコチマ!ヨコチマっ!!」

 声の限り叫ぶ。でもヨコチマから返事はありまちぇん。


 

『カチカチカチ・・・』


 

 知らないうちに歯が鳴っていまちた。もしかしたら・・・といういやな考えが頭をよぎりまちゅ。

「落ち着け、パピ!」

 わたちの肩をつかむお姉ちゃん。でもわたちの震えは全く止まりまちぇ
ん。


 

『・・・・・ッ! ・・・・ッ! ・・・・・ッ! ・・・・・ッ! ・・・・・ッ!』


 

 その時、どこからか聞こえる音に気がつきまちた。数秒おきに繰り返される音。まるで何かをたたきつけるような音でちゅ。いったいどこから・・・

「こいつは・・・勝手場からか・・・?」

 お姉ちゃんのつぶやき。

 わたちはあんまり入らない場所でちゅ。わたちは料理が出来まちぇんし、それにお勝手場には刃物があってあぶな・・・

『・・・・・!!!!!!』

 お姉ちゃんと顔を見合わせる。そして一目散にお勝手場に向かって走り出しまちゅ。

「ヨコチマ!!」
「ポチ!!」


 

『・・・・・ガッ! ・・・・・ガッ! ・・・・・ガッ!』


 

 わたち達の目に入ってきたのは、お勝手場のまな板の上で、血がべっとりと付いた包丁を振りかざし、何度も何度も何度も自分の左手首に突き立てているヨコチマの姿でちた。

 血の飛び散ったヨコチマの顔は、ぼんようとしたまま、振り下ろされる包丁を追ってカクカクと上下していて・・・それがなんだか操り人形みたいで・・・・・・面白くて・・・・・・


 

「・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 

(ベスパ)

「・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「くそっ!」


 

 パピリオの叫び声にはじかれるように、一足飛びにポチのヤツに飛びかかる。ポチのヤツはこちらに気づく様子もない。

 ポチを背後から羽交い締めにする。

「パピリオ! パピ!! ポチから包丁を取り上げろ!!」
「・・・いやぁ・・・いやぁ」

 しかしパピリオのヤツは、いやいやと首を振るばかり。

「・・・・ベスパ・・・か?」

 その時、ヨコシマが自分の肩越しにアタシを見つめる。その様子は羽交い締めにされてようやく気が付いたといった雰囲気。飛び散ったのであろう、自分の血の付いたポチの顔は、そのぼんやりとした表情と相まって、うすら寒さを感じさせる。


 

 だめだ、今のコイツはきっと何を言っても無駄だ!


 

「パピ!・・・パピ!!」

 叫ぶ。その間も、ポチは自分の手首に包丁を突き立てようともがく。よく見ると逆手に握られた出刃包丁は、錆びがひどくて使い物にならないと、アタシが引き出しにいれておいたヤツだ。

「パピ!」

 何度呼びかけても、ただ首を振り、怯えるばかりのパピリオ。さすがにいらついてくる。アタシはポチの背骨を砕いてしまわぬように、手加減して押さえつけなければならないというのに。


 

「パピ! ・・・くっ、この役立たずが!!」


 

 言ってしまってから、しまったと気づく。つい勢いに任せて口が滑ってしまった。


 

「・・・・・!?」


 

 しかしそれが功を奏したのか、パピリオの意識がこちらに向く。

「パピ、早く包丁を取り上げろ!!」

 アタシの言葉に、はじかれるようにこちらに飛ぶパピリオ。そのままポチの右手にしがみつき、包丁をその手からもぎ取る。

 包丁が勝手場の床を転がってゆくのを横目で眺めながら、ポチの身体を床に引き倒す。

「パピ、右手を押さえてろ!」
「・・・・・・!」

 コクコクと何度も首を縦に振るパピリオ。

 右手をパピリオに任せ、アタシはポチの二の腕を床に押しつけ、次いで血のあふれる手首を確認する。

「ひどい・・・」

 そこは何度も何度も包丁が・・・しかも錆びた出刃包丁が・・・突き立てられたせいでぐちゃぐちゃで、ほとんど手首の様子を呈していない。その傷はヒジの方まで付いており、よほど強く突き立てたのだろう、所々貫通・・・といっても切れ味がないせいで、ほとんどつぶれている・・・している傷まである。


 

「・・・ひっ!!」

 きっと見てしまったのだろう、息を呑むパピリオ。ポチはおとなしく押さえつけられたままだ。


 

 どこからか沸々と怒りがこみ上げてくる。


 

「なんでだ・・・何でこんなバカなまねをしたんだ!!!」

 右手で、ポチの左手を押さえたまま、ポチの胸ぐらをつかむ。


 

「はは・・・ははは・・・・」


 

 ポチの口から漏れるのは、乾いた笑い声。


 

「はは・・・いや・・・俺って最低なヤツだからさ・・・俺の中に流れてる悪い血を出せば・・・もしかしたらちょっとはマシなヤツになるかもって・・・そんな事思ったんだけどさ・・・・・」


 

 薄ら寒くなるような、ポチの空虚な笑い声。


 

「ははは・・・そうだよな・・・俺みたいな最低なヤツが・・・人間のクズが・・・マシになんかなるはずないんだよな・・・はは・・・はははは・・・やっぱ俺・・・・クズだな・・・・はは・・・ははははははははは・・・」


 

 思わずつかんでいたポチの胸ぐらから手を離す。

 後ずさるパピリオ。笑い続けるポチ。

「・・・くっ!」

 怒りはいつの間にか消え失せていた。


 

 もう一度手首に視線を向ける。

 ひどい傷だが、つぶれているせいか、見た目ほど出血はひどくないように思える。これなら命に関わるような事は、多分ないだろう。

 斉天大聖から、何かあったときのためにと渡されていた文珠・・・ポチが創ったものではないらしい・・・を出し、念を込める。浮き上がる文字は『治』。

 その文珠をポチの左手首に押し当て、発動。一瞬の光の後、現れた手首からの出血は、既に止まっていた。だが完全に治るまでには至っていない。

「パピリオ・・・このまま押さえつけてろ・・・」

 はっとして、離していた手を押さえつけるパピリオ。その目はポチの左手に固定されたままだ。

 押さえつけるのをパピリオに任せ、棚の上に置いてある救急箱からガーゼと包帯を・・・ちっ、包帯がない。

 まあいい。

 タオルを水で濡らし、ポチの腕に付いた血をふき取る。表面に付いた血で隠れていた皮膚の部分があらわになる。


 

 いったい何十回突き立てたのだろうか・・・。

 実際の光景を目にしていなければ、だれもこの傷が一本の錆びた包丁でつけられたものとは、思わないだろう。それこそケルベロスの三つの頭に、順に食いつかれたと言った方が、まだ信用できるに違いない。


 

 文珠の力でも治らないその傷跡は、それほどまでにひどかった。


 

「・・・・・・・」

 無言。もうポチからの笑い声も止んでいた。

 あらかた血を吹きとると、消毒薬を吹き付け、ガーゼを押し当てる。包帯がなかったので、やむなくポチの頭からバンダナをむしり取り、それできつく縛り付けた。

「・・・もういいよ、パピリオ」

 とりあえず治療は終わった。後で小竜姫にでもヒーリングをかけてもらえば、傷跡も残らないだろう。

「ヨコチマ・・・」

 涙をためたパピリオが、ポチを抱き起こす。ポチはそれを他人事のように見ているだけだ。

「ヨコチマ・・・さ、向こうへ行くでちゅよ・・・」

 チラチラとアタシを見ながら、ポチを抱くように連れてゆくパピリオ。

「・・・はぁ」

 息を吐き出す。


 

 血に濡れた勝手場。


 

 昼間感じた空虚さとはまた違った寒さが、充満しているようだった。


 

「なんで・・・だろうな・・・」

 縁側から見る星空は、満天。


 

 ポチとパピリオはもう眠っている。もちろん一つの布団で身を寄せ合って・・・いや、あれはパピリオが一方的にしがみついているだけか。


 

「なんで・・・だろうな・・・」

 同じセリフを、もう一度つぶやく。


 

『どうしてアタシはあんなに必死になって、ポチが死のうとするのを止めるのか』


 

 自分でも正直分からない。

 ポチの事は、恨んではいない。確かにポチは・・・いや、ヨコシマはアシュ様を殺した。ヨコシマ一人でやったのではないにせよ、それは紛れもない事実だ。それはアタシもこの目でしっかりと見届けている。ヨコシマがアシュ様・・・もうあの時は『究極の魔体』として、理性すら残っていなかったけど・・・を殺すところを。

 アタシはアシュ様を愛していた。男性としてか、父親としてか・・・それは分からないが、愛していた事は間違いない。でも、だからといってポチを恨むのはお門違いだ。


 

 だってアタシにはどうする事も出来なかったアシュ様の願いを、ヨコシマがかなえてくれたのだから・・・。


 

「・・・・ヨコシマ・・・か」


 

 もしも・・・もしもあの時、アタシにアシュ様を殺せるだけの力があったらどうだったろうか?アタシはアシュ様の望みを叶えるために、アシュ様を殺す事が出来ただろうか?

 答えは出ない。

 でもこれだけは断言できる。もしアタシがアシュ様を殺せていたら・・・きっと今頃、アタシもポチと同じ行動をしていただろう。

 しかしアシュ様を殺してくれたのはポチで、アタシではない。だからポチの・・・ヨコシマの気持ちが分かるなんて言わない。

 しかし、何となく理解は出来る。それならば・・・


 

「なんで・・・止めたんだろうな・・・」


 

『悪い血を出せば・・・ちょっとはマシになるかも・・・』

 そう言っていたけれど、きっとポチの本当の望みは死ぬ事で、あの時アタシが止めに入っていなければ・・・それでもパピリオは止めていただろうが・・・もしかしたらそんなポチの望みが叶っていたかも知れない。

 しかし、アタシは止めに入ってしまった。

 どうしてそんな事をしたのは、自分でも分からない。


 

 もちろん理由を探せば、いくつかはある。たとえばパピリオのため。ポチが命を落とせばパピリオが悲しむ事はきっと間違いなくて、だから止める必要があった。なんなら、アシュ様を殺したポチの事を、実は心の中で怨んでいて、生き地獄を味あわせるために生かしておいた・・・というのも良いかも知れない。


 

 でもそれは今思いつく、後付の理由でしかない。

 間違いなく、あの時は勝手に身体が動いた。ポチを死なせてはならないと、そう思った。そうとしか言えない。


 

「・・・・・・・・・ポチ・・・アシュ様・・・」


 

 アシュ様の望みを叶えてくれたのがポチなら、ポチの望みを叶えるために、アタシがポチを殺してやっても良いと、正直思う。パピリオはアタシを怨むかも知れないが・・・それでパピリオがアタシを殺してくれれば、そんな魅力的な事はない。


 

 ポチはアシュ様を。アタシは姉さんを。パピリオはアタシを。アタシはポチを。ポチは姉さんを。


 

 繋がる円環。消えない絆。・・・ああ、なんて魅力的。


 

「・・・・くだらない」

 頭を振る。アタシは何を考えているのだろうか・・・本当にくだらない。

 立ち上がる。


 

 パピリオと・・・ポチと・・・寄り添って眠ろう。


 

 震える身を縮め、ただ傷をなめ合うだけでも。


 

 今は夢すら見ずに・・・眠りたい。











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